旦 那 「久しぶりですな。ノラ吉さんや、やっと元気が出てきたかね。」
(心配そうな顔で話しかける。)……旦那さんはいい人だ。
ノラ吉 「あっ旦那さん、ついぞやはご心配をかけやした、あのときは…
(涙をこらえきれずに、涙がほほをつたう。)
あっし、正月明けからひょんな出会いで、ひなさんに恋いこがれておりやした。
あの顔立ち、あのお姿、あの歩き方、あの語りぐさ、
あの……、数え上げたらきりがありません。
そのひなさんが丁度一月半前に旅立たれたんでがんす。
その後は涙々の2週間、普通の恋でしたらほんの1日で忘れられる
あっしなんでがんすが……。
(疲れ切った猫顔で)
日々が経ち、ようやく忘れかけたころ。ひな祭りの時期がやってきました。
ひな人形を見たとたん、まぶたに映るひなさんとダブり、また涙、
(そっと右爪で涙をぬぐおうとするが、爪ではぬぐいきれない。)
(溢れる涙に、ニャーゴ、ニャーゴと犬のような遠吠えをする。)
もうひなさんは、どこを探したっていやしません。
この縁側の、日の当たる場所がひなさんのお気に入りの場所だったんでがんす。
その場所にひな壇。
忘れようとしても忘れられないひなさんと過ごしたあのとき。
(ググッツと涙をこらえるノラ吉)

ありがとう ひなさん。」そして、ノラ吉は思った。「なんと美しいひな壇だろう。」
(飫肥に行ってみませんか。ひな祭り見学無料です!フルールさんも行ったみたい。)
夜半、ひな祭りを見終えたあと、ノラ吉は武家屋敷通りを北東に向かって歩いていた。

ライトアップされた夜桜をみて、昭ちゃんという猫を思い出した。
彼は、冬美ちゃんの大ファンだった。
そして、演歌も好きだったことから、そんなに歌って”えっ演歌猫”と言われていた。
♪♪♪♪
さくら さくら はな吹雪
燃えて燃やした肌より白い花
浴びてわたしは 夜桜お七
お七ちゃん!あの切れ上がった目がしびれるぜ!
ノラ吉は気づいた。
俺も冬美ちゃんのファンになろう。
……旦那さんは多分、そんなへこたれないノラ吉さんも好きなんだろう。

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